子供の健康を守るための気候変動対策 |武田薬品
子供の健康を守るための気候変動対策
「こんな暑さでは仕事になりません」
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の疫学教授であるデブラ・ジャクソン博士は、猛暑が妊産婦の健康と医療提供に与える影響について調査したときに、南アフリカの医療従事者からこの言葉を聞きました。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の疫学教授であるデブラ・ジャクソン博士
「医療従事者へのケアをおろそかにすれば、彼らが患者さんをケアすることもできなくなります。私たちの調査では、暑い日には医療従事者たちが治療室にいる時間が減り、母親たちとのコミュニケーションも少なくなってしまうことが分かりました」と、ジャクソン博士は言います。
この発見を機にジャクソン博士とその仲間は、医療従事者の働く環境を改善し、患者さんのより良いケアに結び付けるため、構造工学の専門家に協力を依頼しました。そうして専門家と協力し、医療施設の適切な換気や冷房システムの配置最適化などを行い、医療従事者が効果的に仕事に取り組める環境を整えていきました。
このストーリーは、現実の問題に取り組む上で、状況に応じた介入が重要であることを示しています。また、2019年にロンドン大学衛生熱帯医学大学院にTakeda Chair in Global Child Health(企業の全面的支援による寄付講座の教授職)を設立した際にもこの考え方を指針にしました。Takeda Chairは、子どもたちが直面している最も差し迫った健康課題に取り組むことを目的としており、実社会に影響を与える革新的な研究や取り組みに重点を置いています。
ジャクソン博士は2020年、Takeda Chairの役割を担う最初の人物となりました。就任当初は新型コロナウイルス感染症への対応に注力していましたが、世界の優先課題が変化する中、気候変動が母子の健康に与える影響に関心を持つようになりました。ジャクソン博士は世界保健機関(WHO)やユニセフ(UNICEF)などの国際的な保健機関と協力しつつ、HIGH (グローバル・ヘルスのための暑さ指標)ホライズン研究コンソーシアムと一緒に、気温上昇や気候変動が母子の健康に与える影響を記録しようとしています。
「暑さは誰もが感じるものです。私たちは、南アフリカ、ジンバブエ、さらにはスウェーデンでの研究を通じて、早産や死産、低出生体重児、高血圧、下痢、栄養不良が暑さにより母親と新生児の間で増加していることを確認しています」と、ジャクソン博士は説明してくれました。
さらにジャクソン博士は、熱波の早期警報システムや地域に根差した活動など、レジリエンス(逆境に負けないしなやかな強さ)向上のための適応プロジェクトの立ち上げも行っています。こうした活動は、気候変動による悪影響を受けやすい人々にとって不可欠であるとジャクソン博士は考えています。そして、これらの取り組みはすでに具体的な成果を挙げつつあります。
例えば、ジンバブエのマウントダーウィンでは、地元の女性グループと協力し、この地域における猛暑の影響を写真で記録しました。記録写真は活発な議論を引き起こし、現実的で地域に適応した解決策の必要性への意識を高めました。同チームが地元関係者と導入しようとしている解決策には、ガソリン発電機を太陽光発電システムに置き換えることや、医療施設を白く塗り太陽光を反射させることで建物の熱吸収を抑え、室内を涼しく保つといったことが挙げられます。
「地域の状況を理解し、地域社会と連携することがとても重要です。そうでなければ、実行不可能な解決策になってしまいます」と、ジャクソン博士は強調します。
大薮 貴子 チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ & サステナビリティ オフィサー
このアプローチに、大薮 貴子 チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ & サステナビリティ オフィサーも共感し、次のように述べています。
「タケダの成長と発展の根底には、240年以上にわたり、地域社会が持つ独自のニーズを理解し、そこに対応してきたことがあります。タケダとロンドン大学衛生熱帯医学大学院との連携は、現実的で効果的な保健介入が必要という共通のビジョンを携え、組織同士が力を合わせることで何が達成できるのかを分かりやすく表しています」
ジャクソン博士の当面の目標は、持続可能で公平な解決策を構築していくことです。例えば、医療従事者への猛暑による影響を緩和したり、二酸化炭素排出量を削減したりして、労働環境を改善し、患者さんへのより良いケアに寄与していくような解決策です。また、そこでの学びを世界に共有することで、他の地域でも効果的な介入施策を取り入れ、妊婦や子ども、医療従事者など気候変動の影響を受けやすい人々のプラスになるように努めています。
フロリダやサンディエゴの新生児集中治療室から、ミクロネシアの人里離れた村や南アフリカの賑やかな街まで、ジャクソン博士はこれまでのキャリアを振り返りながら、その歩みの指針としてきた信条を教えてくれました。
「常に自分の調査結果を踏まえて変革に取り組むことです」
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